向かい合わせ四人がけシートで、わたしの前に座った若い男。スーツに違和感がありあり。手には、透明のファイルに入れるもんだから住所氏名まで見えちゃってる履歴書と、下に学校名が印刷され、ご丁寧にも相手の企業名まで大書された茶封筒。そしてごちゃごちゃ書き込んだメモを見ながら、もごもごとやっている。そう、大学四年になって、面接に出かけるんだろう。
さてこの男、風邪気味なのか花粉症なのか、しょっちゅうハナをかむ。まあ、それ自体は責めるわけにいかないのだが、問題はハナをかんだあとのティッシュ。そいつはどういうわけか、そのまま窓際に設えてある小さなテーブルに置くのだ。電車の、向かい合わせの席なのだから、そいつの前のテーブルはつまり、わたしの目の前のテーブルでもある。そこに、どんどんクシャクシャのティッシュがたまっていく。ちょっと不愉快だ。
さらに驚いたことに、その男、なんとゴミをそのままにして降りてしまった。わたしの目の前の小さなテーブルに残された、その男の鼻水がたっぷり染み込んだ、くしゃくしゃのティッシュ。ガムの噛みカスも、いくつか混ざっている。コラ、テーブルはゴミ箱かい!?
封筒に大書してあった某M菱系工業会社の面接官に、わたしは力一杯テレパシーを送った。そのK東学院の学生を絶対落とせ〜〜、と。
同じく四人がけシートの一方に座り、向かいの二人がけシートに子どもを寝かせていた若い母親。穏やかな日差しがシートをあたためる、昼下がりの郊外電車。そして車内がガラガラに空いてるのなら、それはほほえましい光景と言えなくもないのだろう。
だが、ひとつ駅に止まるたび、乗客が次々乗り込んできて、やがて立っている人の方が多くなっても、その母親は自分の前に二人分のシートを占有し、ガキを寝かし続けている。子どもを起こして座らせればその横にひとり、自分が子どもを抱けば二人、余分に人が座れ、より通路で立つ人の密度も疎になるはずなのだが、何の行動も起こさない。
では、周囲の状況をまったく意に介さないのかというとさにあらず。駅について人が乗り込むたびに、あるいは誰かが空席かと思ってガキが寝ているシートをのぞき込むたびに、上半身を伸び上がらせてキョロキョロと周囲を窺うのだ。
ラッシュとしか表現できない、混んだ車内。しかし結局、その母親は自分が降りるときまで、子供を起こそうともしなかった。もしかしたらその子は、不用意に起こせば15両編成の列車全体に響き渡る大声で泣き叫ぶような、癇の強い子どもだったのかもしれない。でも、最後は起こして降りていったしなあ。
それにしても、結局最後までガキをシートに寝かせておける、人並み外れた神経の太さがありながら、あの母親は、なにをキョロキョロしていたのだろう。
人間、背中に目はない。つまり自分の背中は見えない。だから、デイパックなどを背負ってるときには、ことさら自分の背後に気を配らなければならないわけだ。
でも、現実の車内を見渡せばわかるように、電車でデイパックを肩から降ろさない人たちは、背中に飛び出した荷物を背負ったまま混んだ電車に乗るという行為ができちゃう段階でわかっていることではあるのだが、無神経さが突出している連中なのである。
昨日の地下鉄で見た、アタマがニワトリのようになってたヤツは、ナニが入ってるんだか知らないが厚さ30cmもあろうかというデイパックを背負ったまま、吊り革の真下に広げた週刊マンガ誌を読み耽っていた。つまり、もともと立ってる場所が、通路の真ん中なのだ。背中のデイパックの後端は、ほとんど反対側のシートに座った人の膝の上である。
もちろん、そういう無神経なヤツでも立たなければいけないくらいに、電車は混んでいる。そしてそういう通せんぼ野郎はほぼ100%の確率で、ドアの近くに立ち、奥へつめようとする人のジャマをするのだ。無神経なヤツは、徹底的に無神経なのである。
メチャ混みのドア周辺。対して通路の真ん中あたりは人がパラパラ立っているだけ。一瞬の躊躇の後に、アクロバティックな体勢をとりながらデイパックを避け、奥へ進もうとした男性が、少しそのデイパックに当たったのだろう。その通せんぼ野郎は、チッとか舌打ちしながら、男性をにらみ付けた。
おい、お前。それはないだろう!!
Date: 2004/03/10