昔、レース雑誌の編集とかライターをやってた時代に、さんざんお世話になった巨匠の近影が、モスクワ陸上で撮られた最新作品とともに、キヤノンのwebに乗っていた。その、悔し涙を流す新谷選手の写真は、じっと見てるとこっちまでカラダが震えて涙があふれそうになってくる、ものすごい写真だった。
レーカメ(レース専門のカメラマン)ではなく、すでにスポーツ写真の大家だった水谷章人さんは、なんちゅーんだ、職人芸であるカメラマンの部分と、アーティストとしての写真家である部分を、両方とも高い次元で持ってる人で、スキーやスケート、ゴルフや陸上など、あらゆるジャンルですでに大家になってて、そんな人にレースを撮らせた当時の編集長もすごかった。F1とかクルマのレースは興味なさそうで、バイクのレースは人間が動くから面白いんだ、とか言ってたなあ。
タイトル名も忘れたけど、水谷さんの一発の写真だけで構成する連載もやっていた。菅生のTBCビッグロードレースだっけ、ヘアピンで先行するローソンの肩越しに、背後を追う平を撮った写真。スモークシールドの奥に、ギラリと光る平の目に、恐ろしいまでの闘争心が表現されていた。それが、ドアップなのに、状況も全部わかる、もう、完璧な構図。そういうのを、この人、みんながサンニッパとかでピンも置き撮りしてるところで、ひとり500mmとか800mmなんて化け物担いで、指でピント追いかけつつ撮ってたのだ。化け物はレンズではなく、カメラマンだったのだ。
一緒にサーキットへ行かせてもらってた80年代にすでに巨匠だったから、いまいくつなんだろう。この人の「写真力」って、衰えるどころか、歳とともに凄みを増してきているんだなあ。
なお、上の写真は本文と何の関係もありません。当時の雑誌は、ぜーんぶひとにあげちゃった。