思い出の音


大学のときの同級生に、O前くんという友達がいた。ほんっっっとに、いろいろお世話になった友達なんだけど、彼が当時使ってたギターが、このW-100というモデルだった。そのころわたしはヤマハのFG-240ってのを使ってたけど、特に不満があったわけでもなかった。ていうか、そもそもわたしは、ギターの種類にほとんど興味がなかったのだ。エレキギターとフォークギターとクラシックギター程度の違いはわかっても、DだOOOだOOだなんてボディサイズの違いはおろか、モーリスだとかギブソンだとかマーチンだとか、メーカーによるカタチや音の違いもよくわかってなかったし、とにかくどれもこれも「ギター」だった。
しかしそんなわたしでも、とにかくO前くんのギターが、そりゃーもーめーっちゃいい音で鳴って、弾いてて気持ちよくなるほどだったことは、モーリスのW-100という型番とともに、この歳になるまで忘れたことがない。「モーリス持てばスーパースターも夢じゃない」というカマヤツのCMで知ってた、安いギターを作ってるメーカーでも、ちゃんとした値段のギターはすごいんだなあ。いつか欲しいなあ。あの、煌びやかな音をもう一度味わいたいなあ。と、実はそう思い続けてきたんである。
とはいえ、そんなの思い出のなかの音である。気がつけばあのころから三十有余年の時が流れ、気がつけばお金もろくにないのに手元にマーチンもギブソンも並んでるような場所に暮らすようになった。いまさら古い国産ギターなんか弾いたって、ガックリくるだけじゃないのか。しかも、世の中ではジャパンビンテージとかわけのわからないブームを仕掛けられて、それに踊ったヤツらがただの中古ギターの値段を暴騰させ、W-100なんか10万円近くで売ってたりする。去年だっけ、みっちゃんがヨンキュッパのを町田の石橋で見つけて、とりあえず見に行くから押さえてくれ、と連絡したらすでに一撃で売れちゃってて、そのままになってたんだけど、うひゃ、相場より安いスタート価格ながら相応にボロっぽくて誰も入札してない、だけどなんか惹かれるのに出会っちゃったぜ。
というわけで、Something Fineでメンテしてもらって恐る恐る(笑)弾いてみたわけだけど、おおお、この音は、まさにあの音だなあ。もちろん、マーチンやギブソンと比べてもしょうがない音なのは言うまでもないけど、ドルが200〜250円とかの当時、マーチンが$2000以上の時代に、あのころの日本人が本気でまじめに作って10万円のプライスタッグを付けたギター。倍音やたらきれいで、45風デザインだけあってちゃんと鈴鳴りしてるぢゃないか。しかもこの音、かなり好きかも。思い出の中の音が、実はそんなに美化されてなくて、そして色褪せてなかったのが、なんだかうれしいのだった。

Author: shun

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