そして、今宵の月にFさんを想う。

アルデバランが離れつつある月。シーイングがひどくて、FL102Sで30枚撮ったのをスタックしても、こんな感じ。1枚モノにアンシャープマスクかけた方が、キレイだったかもしれない。

月に隠される恒星の中でも明るく目立つ星なので、古くから観測されていて、恒星の固有運動発見の契機となったアルデバラン。太陽の45倍くらいのサイズの赤色巨星。そんな大きな星が、一瞬、ぐらっと揺らいで月の暗部に消えたとき、思ったのは、ついさっき亡くなったと知らされたFさんのことだった。

わたしが毎月出演していた、六本木のライブハウスでシェフをしていたFさんは、茅ヶ崎BOTCHY BOTCHYの開店時から、言葉では言い尽くせないくらい、本当に本当にお世話になった人だった。突然、飲食店をはじめることにしちゃったけれど、一切の知識も経験もなかったわたしは、ちょうどその頃、六本木の店が閉店して失職するFさんに、何度も何度も茅ヶ崎まで来てもらって、まさに店のすべてのことをFさんに教えてもらった。お酒のこと、その作り方のこと。提供する方法のこと。メニューの構成や料理のレシピ。一緒に考えてくれて、どんどんアイディアを出してくれた。トーシロそのもののわたしに、実に根気よく付き合ってくれて、長い実務の経験を活かし、料理を作ってくれて、メニューを決めた。

店が開店したはじめのころは、ある種のヘルパーとして、当時住んでいた中目黒から茅ヶ崎まで、毎日のように通ってくれた。さらに1年もしたころだったか、もっと本格的に店を手伝ってもらうため、とうとう住み慣れた街を引き払って、茅ヶ崎へ引っ越してきてもらっちゃった。Fさんはつまり、わたしのために、自分の人生を、大きく変えてくれたのだった。しかし残念なことに、わたしの力不足もあって、彼に、彼のスキルや熱意を満足させられるだけの仕事を、用意できなかったように思う。2年くらいか。やがて彼はわたしにとって、同じ店で働く人ではなく、同じ茅ヶ崎に住む、古いお友だちになった。彼がわたしのことを、まだ友達だと思っていてくれたのだったら、だけど。

アルデバランはアラビア語で、「後に続くもの」という意味だ。スバルに続いて地平線から出てくるから、そんなふうに呼ばれたらしい。面白いもので、日本でも後星とか、統星(すばる)の後星とか呼ばれていたそうな。彼にとってのすばるは、なんだったのだろう。Fさんに続いて、わたしはなにをすればいいのだろう。

Author: shun

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